エキスパンションジョイント(Exp.J)とは?

建築用エキスパンションジョイント(Exp.J.)は、地震などにより建物に影響を及ぼす有害な外力を分散吸収することにより、建物の被害を最小限にとどめることを最大の使命とする非構造部材です。
イメージの湧かない方も多いかもしれませんが、空港、学校、病院、商業施設、マンションの渡り廊下など大きな建物にある帯状の金属板を見たことがある人は多いのでないでしょうか。

エキスパンションジョイント(Exp.J.)とエキスパンションジョイントカバー(Exp.J.C.)の違い

大型の建物は、2つ以上のブロックに分割して作られていることが多く、各ブロックが外力により相互に移動することがあっても、それらの境界に、引張り、圧縮などの力が生じないようにした手法・工法をエキスパンションジョイント(Exp.J.)と呼びます。

また、そのブロック間の隙間、及び空間の事をクリアランスと言い、それを覆うように設置されている仕上材のカバーを、エキスパンションジョイントカバー(Exp.J.C.)と呼びます。

日本エキスパンションジョイント工業会※の“建築用エキスパンションジョイントの手引”には、「温度変化による伸縮、地震時の振動性状の違いなどによる影響(注1)を避けるために、建物をいくつかのブロックに分割して設ける相対変位に追随可能な接合部の手法及び工法。」と定義されています。

(注1)建物にかかる有害な外力①~⑤

  • ①地震などの振動によるもの

    建物の振動特性が異なる場合は、Exp.J.を設ける必要があります。

  • ②風荷重などの動きによるもの

    強風による揺れも無視できないものがあり、①と合わせて考慮する事があります。

  • ③温度変化などの膨張収縮によるもの

    年間及び日間の温度変化や、直射日光による変化とがあり、すべての金属製の構造や長大な建物では考慮しなくてはなりません。

  • ④不同沈下によるもの

    増築等の場合には、特に考慮する必要があります。地層が異なるとき、建物の重量が違うときにはExp.J.が必要です。但し、基礎一体の大規模建築においては考えません。

  • ⑤コンクリートの乾燥収縮によるもの

※日本エキスパンションジョイント工業会は、理研軽金属工業株式会社を含む建築用金属製エキスパンションジョイントカバーの製造メーカー団体です。
日本エキスパンションジョイント工業会 トップページ (apajapan.org)

エキスパンションジョイント(Exp.J.)が必要な建物は?

エキスパンションジョイントは、下図の建物で必要とされます。空港・駅・病院・学校・マンション・高層ビルなどでよく見られます。

クリアランスはどう決まる?

変位の方向と量によってクリアランスを設定することが大切です。

クリアランスは、設計者が構造計算等によって決めます。クリアランスの寸法は平面計画時の壁や柱の配置など建物全体の影響を及ぼす重要な検討事項となります。

変位の方向とは?

地震の時に想定される揺れは、3方向 XY:水平 Z:鉛直

地震や風等により、建物に外力が作用すると、建物に変位が生じます。
建物の変位・大きさや方向は設計時に大切な確認事項です。
変位させる箇所に設けられたエキスパンションジョイントは3方向の変形となり、地面と平行にクリアランスが変形する水平方向と、地面に対して鉛直に変形する垂直方向の2方向に分けられます。水平方向は、クリアランスに対して水平に広がったり縮んだりする変位をX方向。クリアランスに対して平行に変位するY方向となります。

変位の量とは?

構造計算等によって算出された変形量の大きさとクリアランス寸法は、必ずしも等しくはなりません。クリアランスの寸法は、「建物の変形量」「非構造部材の耐震性」「Exp.J.C.の追従変形量」を考慮して決める必要があります。

クリアランス設定時には、震度・地震の頻度などを考慮します。

建物の変形量は構造計算により算出され、非構造部材の耐震性は建物の用途や地震等の頻度などを考慮します。気象庁の震度階級には、震度階級別に屋内・屋外・鉄筋コンクリート構造の状況が表されているので参考にされます。

またExp.J.C.は非構造部材として検討しますが、変形追従量を含めて設計します。

気象庁の震度階級解説表(抜粋)
階級 屋内の状況 屋外の状況 鉄筋コンクリート構造
3 棚にある食器類が音をたてることがある 電線が少し揺れる -
4 つり下げ物は大きく揺れ、棚にある食器類は音を立てる。座りの悪い置物が、倒れることがある。 電線が大きく揺れる。歩いている人も揺れを感じる -
5弱 吊り下げ物は激しく揺れ棚にある食器類、本棚の本が落ちることがある座りの悪い置物の多くが倒れ、家具が移動することがある。 窓ガラスが割れて落ちることがある。
電柱が倒れるのがわかる。補強されていないブロック塀が崩れることがある。道路に被害が生じることがある。
耐震性の低い建物では壁などに亀裂が生じるものがある。
5強 棚にある食器類、書棚の本の多くが落ちる。テレビが棚から落ちることがある。タンスなど重い家具が倒れることがある。 補強されていないブロック塀の多くが崩れる。据え付けが不十分な自動販売機が倒れることがある。多くの墓石が倒れる。自動車の運転が困難となり、停止する車が多い。 耐震の低い建物では壁、梁、柱などに大きな亀裂が生じるものがある。耐震性の高い建物でも壁などに亀裂が生るものがある。
6弱 固定しない重い家具の多くが移動、転倒する。開かなくなるドアが多い。 かなりの建物で壁のタイルや窓ガラスが破損落下する。 耐震性の低い建物では壁、柱が破壊するものがある。
6強 固定していない重い家具のほとんどが移動、転倒する。戸がはずれて飛ぶことがある。 多くの建物で、壁のタイルや窓ガラスが破損、落下する。補強されていないブロック塀のほとんどが崩れる。 耐震性の低い建物では、倒壊するものがある。耐震性の高い建物でも、壁、柱が破壊するものがかなりある。
7強 ほとんどの家具が大きく移動し、飛ぶものがある。 ほとんどの建物で、壁のタイルや窓ガラスが破損、落下する。補強されているブロック塀も破損するものがある。 耐震性の高い建物でも傾いたり大きく破壊するものがある。

クリアランスによってエキスパンションジョイントカバーを選定

メーカーで製造されている既製Exp.J.C. の可動量はクリアランスの25~50%程度です。メーカー毎の種類によって可動量は異なりますので、可動量を超えた変形が生じた場合は、追従ができずに破損します。これらを考慮し、既製Exp.J.C.の追従量からクリアランス寸法を算出することが可能です。

対応するクリアランスの範囲は?

設計計画によって設定されたクリアランスを繋ぐ既製Exp.J.C.のサイズは、クリアランスを基準として、最大クリアランス600㎜まで50㎜毎に標準化されています。

エキスパンションジョイントカバー(Exp.J.C.)の使用部位

エキスパンションジョイントカバーの種類は全部で5種類

  • Exp.J.C.は、切り離された構造体全ての部位に及び
    屋外では「屋根」と「外壁」
    屋内では「天井」、「内壁」、「床」に必要となります。
  • 既製Exp.J.C.は、各部位の特性を考慮し工業化されたものです。

エキスパンションジョイントカバーの素材は?

既製Exp.J.C.は、金属製が一般的で主に「アルミニウム製」と「ステンレス製」が用意されています。

金属製以外には、内装用として意匠性の高い表面をボードで仕上げるものや、床の重量物通過を考慮されたスチール鋳物製などがあります。
アルミニウム製は、加工のし易さや軽量により施工性が良く、意匠性・生産性にも優れ、屋根・外壁・天井・内壁・床部すべての部位に使用され、全ての参入メーカーで取り扱っています。
ステンレス製は高い強度を持ち合わせ、アルミニウム製同様にすべての部位で使用されますが、床部への使用頻度は非常に高く、荷重性や摩耗性に耐え、調達性も優れる材質として採用されています。

既製Exp.J.C.には、基本性能とオプション性能を有しています。使用される部位毎に要求される性能は異なりますが、共通性能として変位追従性の水平方向と鉛直方向です。その他の基本性能としては、耐雨性、耐荷重性、耐風性、保守性や非脱落性となり、オプション性能として耐火性、遮音性が要求されます。

エキスパンションジョイントカバー(Exp.J.C.)の基本性能とオプション性能

既製Exp.J.C.の部位別要求性能は別表の通りです。

〇は基本性能、※はオプション性能を示します。

要求性能 部位
変位追従量 耐雨性 耐荷重性 耐風圧 保守性 非脱落性 オプション性能
水平方向 鉛直方向 耐火性 遮音性
-
内壁 - - - -
天井 - - - -
外壁 -
屋根

■水平方向
地震や風荷重による変形や温度変化による膨張収縮による変形が主な方向です。

■鉛直方向
不動沈下のような変位で復帰不可能なものもある為、通常は要求しない性能になります。

■耐雨性
屋外に用いる場合には基本性能となります。
既製Exp.J.C.には雨水が侵入しにくい形状や工夫がされているが、製品の性質上可動するものであるため完全にシームレスにすることは困難です。
水勾配や排水計画を十分に配慮する必要があります。

■耐荷重性
床においては基本性能です。
乳母車や荷物の運搬用キャリア等、荷重は様々であるが、病院等で使用されるベッドの荷重(車輪1カ所あたり1500N)を上限荷重として塑性変形がないことを確認し既製としている。
この荷重を超える荷重物が床用Exp.J.C.を通過する時は、保護材を設置する必要があります。

■耐風圧性
屋根・外壁においては基本性能ですが、強度計算上は、一般の風圧基準に基づいて検討すれば良いがExp.J.の設け方によっては、それ以上の風圧がかかる事もあり、安全を十分に確認する必要がある。

■保守性
有害変形及び破損を生じた場合は、容易に発見でき補修、取替えが可能な構造とします。

■非脱落性
変位追従性範囲内であれば基本性能であるが、範囲を超える変位量が発生した場合には、部位毎の特性に応じたオプション性能とする。

■耐火性
重要なオプション性能であり、特にExp.J.は建物を貫通している為に、その要求は強い性能です。
Exp.J.C.に耐火帯を付加させることにより遮炎性と遮熱性を保持させることができます。
理研軽金属工業の既製Exp.J.C. 「ビルジョン」耐火仕様は、遮炎性と遮熱性について、日本エキスパンションジョイント工業会の適合を取得しています。

■遮音性
Exp.J.C.ではオプション性能であり、遮音材の取付により、その性能が向上する。

■耐荷重性能(積雪荷重)
多量の積雪が予測される地域においては、積雪による荷重で、破損しないように、構造や強度に配慮しなければならない。

参考資料:耐火性能

Exp.J.部に求められる耐火性

①Exp.J.部は、開口部であるので防火性能を満たせばよい?

クリアランスの隙間(空間)を開口部として位置付けられ、「防火設備(令109条の2)」や「特定防火設備(令136条の2 3号イ、令112条)」の要求性能は、遮炎性の加熱20分又は1時間となります。

②非構造部材の既製Exp.J.C.が取付けられる部位は主要構造部であるので耐火性能を満たす必要がある?

令107条2号には「壁又は床は、加熱1時間の遮熱性」が、同3号には「外壁又は屋根は、加熱1時間の遮炎性」が要求されています。

既製Exp.J.C. 「ビルジョン」耐火仕様

  • 遮炎性能 クリアランス50~600mm AES 12.5mm
  • 遮熱性能 クリアランス50~600mm AES 25.0mm

理研軽金属工業株式会社の「ビルジョン(耐火仕様)」は日本エキスパンションジョイント工業会の品質審査委員会で審査を受け、適合証を取得しています。

耐火性能/適合品番号 仕様 対象製品番号
遮炎性能
EAJ-防災-3021
●クリアランス600mm以下
●アルミニウム・ステンレス
●耐火帯:アルカリア-スシリケートウール12.5mm
50~600-2BE
50~600-2BCE
50~600-3BE
50~600-2BCE
遮炎性能及び
遮熱性能
EAJ-防災-3022
●クリアランス600mm以下
●アルミニウム・ステンレス
●耐火帯:アルカリア-スシリケートウール25mm
50~600-2BN
50~600-2BCN
50~600-3BN
50~600-2BCN

関連ページ

カタログ